なぜ家賃は上がり続けるのか|物価高でも需給でもない構造的理由
都心部を中心として、連日のように家賃の値上がりや高騰が話題になっています。
巷で家賃上昇の理由として多く挙げられているのは物価高や需給バランスですが、不動産業界に身を置く者としては異なる視点でこの現象を捉えています。
本記事では、家賃高騰の原因をインフレや需給バランス以外の"構造的原因"の視点から考察しています。
Contents
結論:家賃を上げれば不動産価値は跳ね上がる

先に結論を述べるならば、実は不動産価値というのは家賃を上げるだけで跳ね上がる仕組みになっています。
不動産売買の現場においては、不動産価値の査定は収益還元法という手法によって行われることが一般的です。
これを簡単に言えば、ある不動産の年間賃料÷期待利回り(キャップレート)で不動産価値を求めることです。
居住を目的とした実需物件ではなく、収益を目的とした投資用物件ではこのように資産価値が計られています。
ここから、外部環境に由来する自然な家賃の"値上がり"だけではなく、オーナー・投資家サイドによる恣意的な"値上げ"のインセンティブが存在することが示唆されます。
家賃を少し上げるだけで数百万単位の利益
実際に収益還元法を用いて家賃アップのインパクトを計算すると、その大きさは想像を超えるはずです。
例えば、J-REIT保有不動産 月次キャップレート(AJPI・J-REIT)によれば2025年3月時点で、住宅のキャップレートは3.96%です。
これをもとに月額賃料を2万円アップしたケースを想定してみます。
年額賃料アップ
=2万円×12ヶ月
=24万円
収益還元法で見た不動産価値の上昇分
=年間賃料÷期待利回り
=24万円÷3.96%
=606万円
不動産業界では常識とも言えますが、実は「月額家賃2万円アップ=24万円の資産価値アップ」ではないのです。
たった2万円の家賃上昇によって、不動産価値は数百万円単位で跳ね上がるのです。
上記は区分マンションなど1戸に限った家賃上昇を前提としていますが、
仮に収益不動産1棟の場合は、同様の値上げを数戸行うだけで千万円単位の資産価値向上に寄与することになります。
需給バランスやインフレの影響は確かだが…

家賃値上がりの原因として主に挙げられているのは、都心部への人口流入などを加味した需給バランスやインフレでしょう。
確かに、建築費の高騰により新築物件の供給が減って希少性が生まれたり、その分の原価が販売価格や賃料に転嫁されることは容易に想像できます。
実際、一般財団法人建設物価調査会が公表している2026年1月の建設物価建築費指数によれば、
東京の2015年平均を100とした場合、2026年1月時点で約40%も建築費が高騰していることが分かります。
また「億ション」も当たり前となった今、新築・中古の別を問わずこうした居住用物件は高額のあまり手が届かず、
結果として賃貸需要が増えるといった現象も家賃の値上がりに影響していると考えられます。
その他、インフレによる建物維持コスト、修繕費や人件費を含めた運営費用の増加なども挙げることができるでしょう。
見逃される家賃上昇の"恣意性"
しかしながら、先に結論で提示したように、家賃上昇の資産価値へのインパクトを加味すると、
外部環境による自然な家賃上昇とは異なる視点からこの現象を眺めることができます。
それは、オーナー・投資家サイドにとっては、家賃を恣意的に上昇させる圧力があるという点です。
とりわけ新規募集賃料の上昇ではなく、入居中の住戸に対する値上げを考えるとき、この点についての納得感は強くなるかと思います。
実は"外部環境を理由とした家賃上昇"という世間の認識は、不動産業者にとっては非常に都合がいい状況です。
なぜなら、家賃高騰の要因・根拠をインフレや需要増という"恣意的でない"経済・市場環境に還元できるため、
オーナー・投資家サイドの家賃値上げの恣意性を小さくみせ、正当化することができるからです。
家賃増額交渉は「言うだけタダ」状態

ただし、新規募集賃料の上昇については致し方ない側面もあります。
というのも、実際にその賃料で成約するか否かについては、入居希望者が納得するかにかかっている点で、需給の法則に従っていると考えられるからです。
一方で、新規募集賃料はまだしも、居住中の物件に対する家賃の値上げについては疑問に思う方も多いのではないでしょうか?
実は、不動産業界としては、現入居者に対する家賃増額交渉はコストゼロでできる利益アップ策となってしまっている現状があります。
家賃を上げるための一般的な手法は空室のリノベーションを行うことですが、リノベーションの場合は工事費用が発生します。
しかも、入居中の住戸については工事を実施することができないため、空室が生まれるのを待つか、元から空室のある物件に投資するしかありません、
しかしここで重要なのは、家賃交渉は入居中の住戸に対しても常時行うことができる点です。
リノベーションを超えるROI
端的に言えば、工事費用も掛からなければ、空室に限られるという制約もないのが現入居者への家賃増額交渉となってしまっているのです。
皮肉にもこれをROIで考える場合、リノベーションコストをかけて家賃を上げる場合より、
実質コストゼロで1円でも家賃が上がる方が投資効率が良いことは自明です。
もちろん、賃料相場を根拠とした値上げ交渉を行うことが通常であり、相場を度外視した法外な値上げを要求する投資家は一部であることは申し添えておきます。
投資家から見た家賃値上げの「現在」だけじゃないメリット

さて、わずかな家賃上昇が不動産の資産価値へ大きく寄与するということについて説明してきました。
しかし、実は新規募集・増額交渉の別を問わず、家賃の値上げについては必ずしも「現在」だけの資産価値向上策ではありません。
以下、不動産投資の実務的視点から解説します。
成約実績(トラック)ができれば売却に有利
最大のポイントは、不動産1棟を所有している場合、
新規募集賃料の高値での成約や、家賃の増額交渉成功は一部屋のみでも良いということです。
例えば、30戸ある不動産のうち1戸でも賃料の増額に成功すれば、その住戸が当該不動産の相場賃料とみなされます。
これは、実際には月額15万円の部屋が1戸で、その他の住戸が全て13万円だとしても、
「本物件の適正賃料は15万円である」という説明が可能になることを意味します。
つまり、現在の成約実績をもって将来的なアップサイドを謳うことができるのです。
賃料の上昇余地があるということは、資産価値上昇の余地があるということと同義ですので、
こうしたトラックを作ることができれば有利に売却を進めることが可能になります。
やや専門的に説明するならば、成約実績によって未来のキャッシュフローの改善を見込むことができれば、不動産の「現在価値」はそれだけ大きくなるということです。
まとめ

家賃収入は不動産価格に直結しています。
しかも、それは現在の家賃収入そのものに限らず、将来的な資産価値や売却価格にまで影響を及ぼします。
だからこそ、外部環境による賃料上昇が不動産価格を後押しし、それに追随する形で恣意的な値上げを行うインセンティブが投資家サイドに発生すると言えます。
とはいえ、究極的には鶏が先か卵が先か、あるいは不動産バブルという舞台上でのパラノイア的熱狂の仕業か、真相は分かりません。
しかしながら、本記事で考察したような構造的要因から、これまでとは異なる視点で不動産を理解する一助になれば幸いです。
